当時乗っていたバイクはというと、必死こいてﾊﾞｲﾄして買ったWOLF125。ちょうど、峠を走ることを始めた時期で、恥ずかしながら、「膝すり」に密かに憧れていた時期でもある。･･･なんで「密かに」かというと、「走り屋」がまだ多かった時代で、みんながやっていたことを「俺もやりたい！」なぁんて言うのは、なんか恥ずかしかったのだ。んで、「膝すり？ 興味ないね。俺は、大人な走りを追求するのｻ」とか言っちゃったりしていた。ん〜、若いなぁ！
でも、29万も出して買ったｳﾙﾌでそんなｺｹるようなことはできないし、ﾌﾙｻｲｽﾞでは、倒しこむのは怖い。そんならば、ちっこいﾊﾞｲｸならば恐怖もなくできるのではないか？？ ちっちゃいﾊﾞｲｸなら、散々ｺｶして駄目にしても気にならないんでは？ ･･･とか、無いものねだりで物事を考えちゃったりで、大きなﾊﾞｲｸ屋を見つけては物色をしていたのだった。
●怪しいﾋﾟﾝｸのﾊﾞｲｸ
その日も、NSR80かTZR50の安いのを探してとあるﾊﾞｲｸ屋に行ったときのこと。店員に、「NSR80ってやっぱりﾊﾟﾜｰあるものですか？ どれくらい出るものですか？」と、営業妨害よろしく聞いていた。今にして思えば（今もだけど）、ろくすっぽ使えもしないｸｾに、ｻｽはいいのかとか、旋回性はどうのとか ･･･ あれこれ話を聞いて､また考えながら跨ったりしていると、ﾌと隣にある怪しいﾋﾟﾝｸのﾊﾞｲｸが目にとまった。
NSRとも、TZMとも、ましてやYZRともつかぬﾌｫﾙﾑ。ひとまわり小さいけど、生意気にｶｳﾙがついている。コ汚いけども、妙に存在感がある･･･。値段も、￥69、000と、充分手が届く範囲だ。
「･･･これ、何ですか？」と店員に聞くと、店員の表情が変わった。「ｽｽﾞｷの"GAG（ｷﾞｬｸﾞ）"ですよ。実はコレ､ﾜﾀｼのﾊﾞｲｸなんですけどね」･･･と言う。話しを聞くと､以前ﾚｰｽに使っていて、随分と楽しんだﾊﾞｲｸなんだそうな。ﾊﾟﾜｰもないけど、乗っていて楽しいﾊﾞｲｸだという。
こんな４ｻｲｸﾙのﾊﾞｲｸがあるなんて知らなかった。興味はあったけど、ﾊﾟﾜｰが無いと聞いてその場では、却下する。･･･でも、一週間もたたないうちに、またGAGの前に立っていた。ｳﾛｳﾛしたり、跨ったりしてるから、また店員に声を掛けられて、また話し込んでしまった。
どうしても、NSRよりもTZRよりも、気になってしまう。でも、どうしても踏ん切りがつかないところに、留めの一言が来た。
「あ、これ、すごく燃費がいいよ。」
「俺が、買います」
･･･悲しいかな貧乏高校生。ｶﾞｿﾘﾝ代も死活問題で、NSRの「20km/l」よりも、GAGの「40km/l」は、何にも増して輝いて見えてしまったのだ。
5000円ほど値引いてもらって（笑）、一週間後にはGAGを手に入れていた。
●すっげぇ、遅い！ でも、笑えるのは何故？
ﾊﾞｲｸ屋で引取りをして、たっぷり暖気して走りだす。
「・・・・・ 遅いっ！」
予想はしていたけど、なんという遅さ！ 同じ50ccは比べるまでもなく、ｽｸｰﾀｰにも余裕で置いていかれる。道が幹線道路だったものだから、60km/hで走ろうものならｶﾞﾝｶﾞﾝに抜かれて、怖いのなんのって。もう、「買ったのは失敗だったかなぁ」･･･と、後悔の念が頭をもたげる。･･･それで、逃げるように裏道に行った。
落ち込む気持ちを忘れるかのように、裏道をﾊﾞｲｸのﾍﾟｰｽでのんびりはしってみる。そうして、しばらくすると･･･、なぜだか笑みが浮かんできてしまった。
ｱｸｾﾙを開けると、「ﾄｺﾄｺﾄｺ」と股の下からﾏｲﾍﾟｰｽな振動が伝わってくる。がむしゃらに回る訳でなく、いじけたようにくすぶる訳でもなく、ひたすら「ﾄｺﾄｺﾄｺ」･･･と。なんだか、かわいさを感じでしまって、おもわず呟いてしまった。「こりゃ、おもしろいや！」性能に振り回されることもなく、かといってその気になれば70km/h出るｽﾍﾟｯｸ。「5馬力」という設定は、ひょっとしたら気持ちいいのかもしれない。･･･と、ひとりほくそえんだ。
●さすがの4ｻｲｸﾙ 財布にやさしい
数日後、ｶﾞｿﾘﾝｽﾀﾝﾄﾞでｶﾞｽ給油してびっくりした。
「・・・・・ 45ｋｍ/ｌ ・・・・・凄い。」
燃費を意識していた訳ではないのに、この成績。「ｶﾞｿﾘﾝを気にしないで、好きなだけ走れる」 ･･･これだけで、なんとも幸せな気分になれたものだった。
それからというもの、近場の足として、はたまたﾘﾗｼ配りのﾊﾞｲﾄの相棒として、いつもﾄｺﾄｺと走り回った。そんなGAGに贈った誉め言葉が ･･･
「極上の、鈍足。」
これで、ｷﾏﾘ。
